下請法とは|対象となる取引について資本金など適用条件を解説

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弁護士相談Cafe編集部
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下請事業者が親事業者の意向に振り回される、親事業者から搾取されるなどの事態は、社会的に大きく問題視されています。

仕事を与える側・もらう側という関係上、下請事業者は弱い立場に立たされてしまう傾向にあり、そのことで下請事業者の労働環境が過酷になっていることが指摘されています。

このような問題点を改善するために設けられているのが「下請法」です。

下請法の対象となる取引については、下請事業者の搾取に繋がるような行為が親事業者に対して禁止されます。

この記事では、どのような取引が下請法の対象となるかという点を中心に、専門的な観点から解説します。

下請法(下請代金支払遅延等防止法)とは?

まずは、下請法の目的と、下請法によって親事業者に対して禁止されている行為について解説します。

下請事業者を保護するための法律

下請法は、正式名称を「下請代金支払遅延等防止法」といいます。

親事業者と下請事業者の間の取引において、両者のパワーバランスの格差は大きな問題になっています。

これを放置すると、下請事業者が親事業者から搾取されてしまうことになりかねません。

下請法は、このような親事業者と下請事業者の間のパワーの差を埋め、下請事業者を保護するために制定されました。

下請法に基づく親事業者の禁止行為

下請法に基づき、親事業者に対して禁止されている行為のパターンは以下のとおりです。

①受領拒否(下請法4条1項1号)
②支払遅延(同項2号)
③下請代金の減額(同項3号)
④返品(同項4号)
⑤買いたたき(同項5号)
⑥購入・利用強制(同項6号)
⑦不当な経済的利益の提供要請(同条2項3号)
⑧不当な給付内容の変更および不当なやり直し(同項4号)

具体的にどのような場合が上記の禁止行為に該当するのかは別記事に譲りますが、公正取引委員会が公表している運用基準にも具体例の詳細が載っているので、併せて参照してください。

下請法の適用対象かどうか確認|取引の4分類

下請法が適用される可能性のある「取引」について解説します。対象となる取引は下記の4種類に分類されます。

①製造委託
②修理委託
③情報成果物作成委託
④役務提供委託

①製造委託

1つ目の対象となる取引は製造委託です。製造委託には、大きく分けて以下の4つのタイプがあります。

①物品の販売を行う親事業者が、物品自体や部品などの製造を下請事業者に委託する場合

→たとえば自動車メーカーが、部品製造を部品メーカーに委託する場合などが考えられます。

②物品の製造を請け負う親事業者が、物品自体や部品などの製造を下請事業者に委託する場合

→たとえば精密機器メーカーが、受注生産をする精密機械の部品製造を部品メーカーに委託する場合などが考えられます。

③物品の修理を行う親事業者が、修理に必要な部品や原材料の製造を下請事業者に委託する場合

→たとえば家電メーカーが、修理用部品の製造を部品メーカーに委託する場合などが考えられます。

④自社で使用・消費する物品を社内で製造する親事業者が、物品自体や部品などの製造を下請事業者に委託する場合

→たとえば製品運送用の梱包材を自社で製造している精密機器メーカーが、梱包材の製造を資材メーカーに委託する場合が考えられます。

②修理委託

2つ目の対象となる取引は修理委託です。修理委託には、大きく分けて以下の2つのタイプがあります。

①物品の修理を業として請け負う親事業者が、修理の全部または一部を下請事業者に委託する場合

→たとえば自動車ディーラーが、顧客から請け負った自動車の修理を修理会社に再委託する場合などが考えられます。

②自社で使用する物品を自ら修理する親事業者が、修理の一部を下請事業者に委託する場合

→たとえば自社工場の設備を社内で修理する工作機器メーカーが、設備の修理を修理会社に委託する場合などが考えられます。

③情報成果物作成委託

3つ目の対象となる取引は、情報成果物作成委託です。情報成果物作成委託には、大きく分けて以下の3つのタイプがあります。

①情報成果物を消費者に提供する親事業者が、情報成果物の作成の全部または一部を下請事業者に委託する場合

→たとえばソフトウェア・メーカーが、ゲームやアプリソフトの開発を他のソフトウェア・メーカーに委託する場合などが考えられます。

②ほかの事業者から情報成果物の作成を請け負う親事業者が、情報成果物の作成の全部または一部を下請事業者に委託する場合

→たとえば広告会社が、テレビ局から受注したCMの制作をCM制作会社に委託する場合などが考えられます。

③自社で使用する情報成果物の作成を行う親事業者が、情報成果物の作成の全部または一部を下請事業者に委託する場合

→たとえば家電メーカーが、社内で作成する自社用経理ソフトの作成の一部をソフトウェア・メーカーに委託する場合などが考えられます。

④役務提供委託

最後の対象となる取引は、役務提供委託です。役務提供委託は下記のとおりとなります。

役務提供委託とは、事業者や消費者から請け負った役務を「再委託」することをいいます。

→たとえば自動車メーカーが、保証期間内の自動車メンテナンスを自動車整備会社に委託する場合などが考えられます。

取引が下請法の対象となる条件は?

先述した「製造委託・修理委託・情報成果物作成委託・役務提供委託」に該当する取引について、実際に下請法の適用対象となるか否かがどのように判断されるのかを解説します。

「取引の分類」と「資本金」により決まる

取引が下請法の適用対象になるかどうかを判断する際には、まず対象取引が、その内容に応じて2つのカテゴリーに分類されます。

便宜上、以下ではカテゴリーA、カテゴリーBとして解説します。

そして、各カテゴリーに応じて設定される、親事業者・下請事業者の資本金額に関する基準を満たしているかどうかによって、下請法が適用されるかどうかが決定されます。

①カテゴリーA

カテゴリーAに属する取引は、以下のとおりです。

<カテゴリーAに属する取引>
・製造委託
・修理委託
・情報成果物作成委託のうち、プログラムの作成委託
・役務提供委託のうち、運送・物品の倉庫保管・情報処理委託

カテゴリーAに属する取引については、親事業者の資本金額に応じて、以下の要件を満たす場合に下請法が適用されます。

<カテゴリーAの資本金要件>
①「親事業者」の資本金が「3億1円以上」の場合
→資本金3億円以下の会社や個人事業主に対して、カテゴリーAに属する取引を外注する場合、下請法が適用されます。

②「親事業者」の資本金が「1000万1円以上3億円以下」の場合
→資本金1000万円以下の会社や個人事業主に対して、カテゴリーAに属する取引を外注する場合、下請法が適用されます。

②カテゴリーB

一方、カテゴリーBに属するのは、下請法が適用され得る取引のうち「カテゴリーAに該当しないものすべて」です。具体的には、以下のとおりとなります。

<カテゴリーBに属する取引>
・プログラムの作成委託以外の情報成果物作成委託
・運送・物品の倉庫保管・情報処理委託以外の役務提供委託

カテゴリーBに属する取引については、親事業者の資本金額に応じて、以下の要件を満たす場合に下請法の適用対象となります。

<カテゴリーBの資本金要件>
①「親事業者」の資本金が「5000万1円以上」の場合
→資本金5000万円以下の会社や個人事業主に対して取引を外注する場合、下請法が適用されます。

②「親事業者」の資本金が「1000万1円以上5000万円以下」の場合
→資本金1000万円以下の会社や個人事業主に対して取引を外注する場合、下請法が適用されます。

「トンネル会社規制」に注意

事業者(親会社)が子会社を設立した上で、その子会社を通じて下請事業者に取引を委託すれば、形式的には下請法の適用における資本金要件を満たさなくなる場合があります。

しかし、子会社の設立を利用して下請法の適用をバイパスする行為を防ぐため、下請法には「トンネル会社規制」が設けられています。

トンネル会社規制の概略は、以下のとおりです。

①トンネル会社規制の適用にあたっては、親会社が直接下請事業者に取引を委託したとすれば、下請法の適用を受けることが前提となります。

②①を前提に、以下の要件を満たす場合には、親会社と子会社を一体視して、子会社を親事業者とみなして下請法が適用されます。
(a)議決権の過半数を有するなど、親会社が役員の任免・業務の執行などについて子会社を実質的に支配していること。
(b)親会社から受けた委託の金額または量の50%以上を再委託しているなど、相当部分を他の事業者に再委託していること。

親事業者側としては、子会社を通じて取引を下請事業者に再委託しても、下請法の適用を免れない場合があることに注意する必要があります。

下請法が適用されない場合でも値引き強要は問題|優越的地位

下請法が適用される場合、親事業者に対して、下請事業者の責に帰すべき理由のない下請代金の減額などの行為が禁止されます。

逆に言えば、下請法が適用されない場合には、こうした親事業者に対する禁止行為の規制は適用されないことになります。

この場合、たとえば元請けが下請けに対して値引き強要などを行っても、法律上問題ないのでしょうか?

結論から言えば、このような行為は法律上大いに問題があると言わざるを得ません。

取引に対して下請法が適用されないとしても、「独占禁止法(正式名称:私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)の適用」があります。

独占禁止法19条では、事業者が不公正な取引方法を用いることを禁止しています。

そして、「不公正な取引方法」には、優越的地位を使いすぎないことが禁止行為として含まれています(独占禁止法2条9項5号)。

優越的地位を使いすぎないこととは、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に相手方を搾取する行為をいいます。

値引き強要も、法律の明文上、このような不当な搾取行為の一つとして挙げられています(同号ハ)。

つまり、下請法が適用されない取引であったとしても、元請けが下請けに対して優越的地位を利用した値引き強要を行った場合、独占禁止法違反に該当します。

独占禁止法違反の行為については、公正取引委員会による調査・処分などの対象になる可能性があるので、十分注意が必要です。

5. まとめ

下請法は、親事業者と下請事業者の間の力関係を是正するために制定された法律です。

下請法が適用されるかどうかは、取引の内容と資本金要件によって決定されます。

この記事で解説したパターンを踏まえて、自社が関係する取引に下請法の適用があるかどうかを確認してみましょう。

ただし、仮に下請法の適用がないとしても、下請法で親事業者に禁止されている行為を行って良いかというと、必ずしもそうではありません。

独占禁止法などの他の法律との関係で問題が生じる可能性もありますので、元請け会社が下請け会社に接する際には十分に注意が必要です。

下請法やその他の法律との関係など、自社の取引に関して法的な不明点がある場合には、弁護士に相談することをおすすめします。

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