下請法違反について|違反事例や罰則などをわかりやすく解説
下請法では、親事業者に対して、下請事業者の「一方的な搾取」に繋がるような行為が禁止されています。
禁止行為のパターンには、非常にさまざまなものがあります。
違反行為についての詳細は、公正取引委員会が公表している「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」に定められています。
この機会に、下請法違反に該当する行為のパターンを押さえておきましょう。
この記事では、下請法の違反事例や適用される罰則などについて、法律的な観点からわかりやすく解説します。
目次
下請法により親事業者に禁止されている行為のパターン・具体例
下請法4条1項および2項は、下請法の適用対象となる取引について、親事業者に対して一定の行為を禁止しています。親事業者に禁止されている行為のパターンと具体例を見ていきましょう。
受領拒否
下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、下請事業者の「給付の受領を拒むこと」は禁止されています(下請法4条1項1号)。
たとえば以下の事例は違法な受領拒否として禁止されます。
<受領拒否の例>
1. 親事業者が下請事業者に部品の製造を委託し、これを受けて下請事業者が受注部品を完成させた。しかし、親事業者が自社の生産計画の変更を理由に、下請事業者に対して「一方的に納期の延期を通知」し、当初の納期どおりに部品を受領しなかった。
2. 親事業者が下請事業者に革小物の修理を委託し、下請事業者は納期どおりに修理を完了した。しかし、親事業者が繁忙期のため受領態勢が整わないことを理由に、納期において「修理が完了した革小物を受領しなかった」。
3. 親事業者が下請事業者にシステムプログラムの開発を委託し、下請事業者は指定された仕様に従ってシステムプログラムを完成させた。しかし、親事業者は仕様変更を理由として、当初の仕様に従って下請事業者が「開発したシステムプログラムを受領しなかった」。
支払遅延
下請代金を、支払期日が経過したにもかかわらず、支払わない行為は禁止されます(下請法4条1項2号)。
なお、下請代金の支払期日は、親事業者が下請事業者から給付を受領した日から起算して、「60日以内」かつできる限り短い期間内において定められなければならないとされています(下請法2条の2第1項)。
たとえば、以下の行為は違法な「支払遅延」に該当します。
<支払遅延の例>
1.毎月25日納品締め切り、翌々月5日支払いの支払制度を採用し、下請事業者の給付を受領してから実際の支払いが行われるまでの期間が60日を超えていた。2.親事業者が下請事業者に対してプログラムの作成を委託した。支払いは親事業者による検収後に行われることになっていたが、検収に3か月を要したため、下請代金が納品後60日を超えて支払われた。
3. 下請事業者からの請求書の提出が遅れたという理由だけで、下請事業者が役務を提供したにもかかわらず、予定の支払期日を超えて下請代金を支払った。
下請代金の減額
下請事業者の責に帰すべき理由がないにもかかわらず、下請代金の金額を減ずることは禁止されます(下請法4条1項3号)。
たとえば、以下の行為は違法な下請代金の減額に当たります。
<下請代金の減額の例>
1.親事業者が、製品を安値で受注したとの理由で、あらかじめ決まっている下請代金を減額した。2.親事業者が、自社の発注業務の合理化のために電子受発注システムを導入し、下請事業者には何のメリットもないにもかかわらず、「オンライン処理料」の名目で費用を課し、下請代金を減額した。
3.下請代金の支払時に100円未満の「端数を切り捨て」ることにより、下請代金を減額した。
返品
下請事業者の責に帰すべき理由がないにもかかわらず、下請事業者が納品した商品を返品することは禁止されています(下請法4条1項4号)
たとえば、以下の行為は違法な返品に該当します。
<返品の例>
1.親事業者は下請事業者に対して、衣料品の製造を委託した。ところが、親事業者は店舗商品の入れ替えを理由に、一旦納品を受けた衣料品を下請事業者に引き取らせた。2. 親事業者は染加工を下請事業者に委託した。ところが、以前はもんだいにしていなかったような色むらを指摘して、納品済の染物を下請事業者に引き取らせた。
3.親事業者は下請事業者に広告の制作を委託した。ところが、成果物を一旦受領したにもかかわらず、取引先からキャンセルされたという理由で、下請事業者に引き取らせた。
買いたたき
下請事業者が納品する商品などの成果物について、通常支払われる対価に比べて著しく低い下請代金を定めることは禁止されています(下請法4条1項5号)。
たとえば、以下のような行為は違法な買いたたきに該当します。
<買いたたきの例>
1.親事業者が下請事業者に大量発注を前提とする単価での見積りを提出させ、その単価で実際には少量のみの商品制作を発注した。2.親事業者が下請事業者に対して、量産が終了している部品について、補給品として少量の制作を依頼する際に、量産時の大量発注を前提とした単価で発注した。
3.親事業者が、自己のコスト削減目標を達成するためという理由で、下請事業者との十分な協議を経ることなく、一方的に原価低減を強制した。
購入・利用強制
下請事業者に対して、正当な理由がないのに、親事業者が指定する物を強制的に購入させたり、役務の利用を強制したりすることは禁止されています(下請法4条1項6号)。
たとえば、以下のような行為は違法な購入・利用強制の疑いがあります。
<購入・利用強制の例>
1.親事業者が、自社製品のセールスキャンペーンの一環として、下請事業者ごとにノルマを定めて自社製品の購入を要請し、購入させた。2.親事業者が、放送番組の作成を委託している下請事業者に対して、自社の関連会社が制作した映画のイベントチケットを、ノルマを設けて購入させた。
3.親事業者が、貨物運送を委託している下請事業者に対して、下請事業者が必要としていないにもかかわらず、取引先から購入を求められていた自動車の購入を要請し、購入させた。
不当な経済的利益の提供要請
下請事業者に対して、親事業者のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させることは禁止されています。
たとえば、以下の行為は「不当な経済的利益の提供要請」に該当する疑いがあります。
<不当な経済的利益の提供要請の例>
1. 親事業者は、インテリア製品の製造を委託している下請事業者に対して、自社のショールームに展示することを目的として、展示用のインテリアを無償で提供させた。2.親事業者が広告宣伝費用を確保するため、下請事業者に対して、協賛金の名目で金銭を提供させた。
3.貨物運送を委託している下請事業者に対して、委託対象外の貨物の積み下ろし作業を行わせた。
不当な給付内容の変更および不当なやり直し
下請事業者の責に帰すべき理由がないのに、納品内容の変更や、納品のやり直しをさせることは禁止されています(下請法4条2項4号)。
たとえば、以下の行為は不当な給付内容の変更および不当なやり直しに該当する可能性があります。
<不当な給付内容の変更および不当なやり直しの例>
1.従来の検収基準では合格していた納品物について、親事業者が一方的に検収基準を変更し、下請事業者に無償で納品のやり直しを求めた。2.親事業者の担当者変更に伴い当初の指示内容が変更されたため、下請事業者に追加作業が発生した。しかし親事業者は、下請事業者が追加作業に要した費用を負担しなかった。
3.親事業者が、発注元からの発注が取り消されたことを理由として、下請事業者への発注を取り消した。しかし親事業者は、下請事業者が要した費用を負担しなかった。
下請法違反は公正取引委員会による勧告・報告要求・検査の対象に
上記に例を挙げたような下請法に違反する行為が認められる場合、「公正取引委員会」により、違反行為を是正するための勧告が行われます(下請法7条1項)。
さらに、親事業者・下請事業者間の取引について、公正取引委員会の判断により公正化の必要性が認められた場合には、両当事者に対して報告義務が課されたり、「検査」が行われたりする場合もあります(下請法9条)。
このように、下請法違反に該当する行為の是正は、基本的には公正取引委員会の勧告・報告要求・検査による指導によって行われることになります。
親事業者が下請法に違反した場合の「罰則」は?
親事業者が下請事業者との取引を行うにあたって、下請法に違反したとしても、直ちに罰則の対象となるわけではありません。
ただし、取引にあたってのごく基本的な義務や、公正取引委員会による指導の前提となる義務に違反する行為については、一部「刑事罰の対象」となっています。
具体的に罰則の対象となる行為は、以下のとおりです。
書面交付義務に違反した場合
親事業者が下請事業者に対して業務を委託した場合、給付の内容・下請代金の額・支払期日・支払方法などを記載した「書面を下請事業者に交付」しなければならないとされています(下請法3条1項)。
親事業者がこの書面交付義務に違反した場合、違反行為をした個人と親事業者に対して、それぞれ50万円以下の罰金が課されます(下請法10条1号、12条)。
書類等の作成・保存義務に違反した場合
親事業者が下請事業者に対して業務を委託した場合、下請事業者からの給付・給付の受領・下請代金支払いなどについての記録を、書類または電磁的記録で作成・保存しなければなりません(下請法5条)。
親事業者がこの書類等の作成・保存義務に違反した場合、違反行為をした個人と親事業者に対して、それぞれ50万円以下の罰金が課されます(下請法10条2号、12条)。
公正取引委員会に対する虚偽報告・検査拒否等
公正取引委員会から報告を求められたにもかかわらず報告をせず、もしくは虚偽の報告をした場合、または検査を拒否・忌避した場合には、違反行為をした個人と親事業者に対して、それぞれ50万円以下の罰金が課されます(下請法11条、12条)。
親事業者が下請法に違反している場合の相談先・通報先は?
下請事業者の側で、親事業者が指定してくる取引条件などについて、下請法に違反しているのではないかという疑念を抱いた場合、誰に対して相談・通報すれば良いかについて解説します。
公正取引委員会に訴える
下請法を管轄しているのは公正取引委員会ですので、公正取引委員会に対して親事業者の行為を通報することが有効です。
公正取引委員会は、親事業者に対する勧告・報告要求・検査を行うことができますので、親事業者の問題行為・違法行為を監督官庁の立場から是正してくれることが期待できます。
ただし、公正取引委員会は下請事業者の代理人ではなく、あくまでも監督官庁としての立場で親事業者に対する「指導」を行うに過ぎないということに注意が必要です。
弁護士に相談する
下請事業者が親事業者に対して権利の侵害を主張したり、損害賠償などを請求したりすることを考える場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、親事業者・下請事業者間の契約内容や下請法の内容などを精査したうえで、下請事業者が親事業者に対して法的に主張できることはないかを専門的に検討してくれます。
下請事業者としての権利を守るために、一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
まとめ
下請法違反の行為にはさまざまなパターンがありますが、総じて親事業者が優越的な立場を利用して下請事業者を搾取するような行為は、下請法違反に該当する可能性が高いといえます。
下請事業者の方としては、この記事で解説した下請法違反の行為の内容を踏まえつつ、少しでも違和感を感じたらお早めに弁護士にご相談ください。