使用者責任とは|会社はどこまで責任を負うのか

監修
弁護士相談Cafe編集部
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会社は、従業員を雇うことで事業規模を拡大することができます。

他方で、会社は、従業員を雇うことによって、社員の不祥事の責任を負うリスクもあります。

会社の経営者としては、そのようなリスクを回避するとともに、仮に不祥事が起きてしまったとしても適切に対処することで、被害を最小限に食い止める必要があります。

今回は、会社が責任を負う「使用者責任」について、具体的なケースをもとに解説します。

「使用者責任」とは?会社はどのような場合に第三者に対して賠償義務を負うのか?

使用者責任はどのような場合に成立するのでしょうか。具体的な成立要件について説明します。

(ア) 使用者責任とは?

他人に損害を与えた場合について、損害賠償責任を負うということはよく知られています。

これについては、民法709条が不法行為として以下のように規定しています。

民法709条:故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

不法行為責任は、加害者が被害者に対して負う賠償責任ですので、従業員が誰かに損害を与えたとしても、直接の加害者ではない会社が民法709条で責任を負うことはありません。

しかし、会社は、従業員を雇用し利益を得ていることから、従業員の行為によって第三者に損害を与えた場合には、その利益から損害を補填すべきという考え方(報償責任)や従業員を雇用して活動範囲を広げ、社会に対する危険を増大させているのであるから、危険を支配する者が賠償すべきという考え方(危険責任)があります。このような考え方に基づき、民法715条は、従業員の不法行為について、会社にも賠償責任がある旨規定しています。

これを使用者責任といいます。

民法715条:ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。(略)

(イ) 使用者責任の成立要件

使用者責任が成立するには、次の3つの要件を満たす必要があります。

① 従業員が不法行為により第三者に損害を与えたこと

使用者責任が成立するためには、当然のことながら従業員による不法行為があったことが必要になります。

② 従業員と会社との間に使用関係があること

次に、使用者責任が成立するためには、使用者(会社)が被用者(従業員)を使用するという関係がなければなりません。使用関係とは、雇用関係に限られるものではなく、実質的にみて使用者が被用者を指揮監督するという関係があれば足りるといわれています。

そのため、請負契約であっても実質的に指揮監督するという関係があれば使用者責任が成立する余地があります。

③ 事業の執行について従業員が不法行為を行ったこと|事業執行性

従業員の不法行為は、会社の事業の執行について行われたものでなければなりません。

このような「事業執行性」については、事業または職務の範囲内の行為だけでなく、事業または職務の範囲そのものには属しないとしても、その行為の外形から観察してあたかも事業または職務の範囲内の行為に属するものをも含みます。

さらに「本来の事業に密接に関連する行為」(通勤中の事故、会社の飲食店での集まりなど)についても事業執行性が認められています。

(ウ) 使用者責任が免責されるケースはあるのか?

民法715条1項ただし書は、会社の使用者責任が免責される場合として、以下のとおり規定しています。

民法715条:(略)ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

このように、法律上は、会社が、従業員の選任および事業の監督について相当の注意をしたことを証明するか、または、相当の注意を払っても損害が発生したであろうことを証明することによって、免責を受けることができます。

しかし、これらの免責が認められた事例はほとんどなく、使用者責任が成立した場合には、免責を受けることはほぼないといえます。

社員の不祥事!従業員の代わりに損害賠償責任を「どこまで」負うか?

使用者責任が成立した場合に、会社はどこまで責任を負わなければならないのでしょうか。

(ア) 原則としてすべての損害を負担|賠償額

使用者責任が成立した場合の効果としては、会社は、従業員とともに被害者に対して、損害の全額を賠償する責任が生じます。

被害者としては、会社と従業員どちらに対しても全額の賠償を請求することができます。

一般的に従業員個人では、高額な賠償を支払う能力がありませんので、会社が負担することが多いでしょう。

(イ) 従業員に対する求償権

では、会社が被害者に対して損害の全額を賠償した場合に、直接加害行為を行った従業員は何の責任も負わずに済むのでしょうか。

このようなケースについて、民法715条3項は、以下のとおり規定しています。

民法715条(略):3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

民法715条3項によると、会社が被害者に対して損害の賠償をした場合には、会社は従業員に対して、支払った賠償金を負担するように請求することができます。

しかし、判例上は、会社は、支払った賠償金の全額を従業員に請求することはできず、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において請求できるにすぎないとされています。

実際には、従業員に対する求償は、大幅に制限されるケースが多いです。

具体例:使用者責任が生じるケース・生じないケース

使用者責任が生じるケースと生じないケースについて、具体例を挙げながら説明します。

(ア) 従業員の窃盗の場合

従業員が万引きなどの窃盗を行い、ある店舗に損害を与えたような場合に、使用者責任を負うことはあるのでしょうか。

この場合に問題となるのは、従業員が「事業の執行について従業員が不法行為を行った」といえるかどうかです。

例えば、従業員が会社帰りにスーパーで窃盗・万引きをしたようなケースでは、会社の事業執行と何ら関係がありませんので、このようなケースでは使用者責任が生じることはありません。

他方、従業員が就業中に「訪問先の備品」を窃盗したというケースやスポーツジムのスタッフがロッカーから客の財布を窃盗したというケースでは事業執行性が認められる余地がありますので、使用者責任が生じるといえます。

(イ) 従業員間の喧嘩・トラブル(傷害事件)の場合

従業員間でトラブル・喧嘩があり、他の従業員に怪我を負わせたような場合には、使用者責任を負うことはあるのでしょうか。

この場合にも加害者の従業員が「事業の執行について従業員が不法行為を行った」といえるかどうかがポイントです。

従業員間のトラブルが、職場ではなくプライベートな場所で仕事とは関係のない原因で行われたものであれば、事業執行性は認められません。

他方、仕事上のミスを咎められたことをきっかけに職場で喧嘩・傷害事件がなされたというケースでは、事業と密接な関連を有するといえますので、事業執行性が認められ、使用者責任が生じる可能性があります。

(ウ) パワハラやハラスメントの場合

パワハラとは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」と定義されています。

パワハラに該当する行為が行われた場合には、使用者責任が生じる可能性があります。

パワハラは、職場内に限らず、飲食店帰りのタクシー内でも成立を認めた裁判例もあります。

会社では、定期的にハラスメント研修を行うなどして従業員に対してパワハラやハラスメントのリスクを周知するようにしましょう。

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(エ) 交通事故

従業員が交通事故を起こした場合に会社が使用者責任を負うことはあるのでしょうか。

ここでもやはり加害者の従業員が「事業の執行について従業員が不法行為を行った」といえるかどうかがポイントになります。

社用車を運転してる際に起きた事故については、外形的にみて職務の範囲内の行為に属すると言えますので、勤務時間内外問わず使用者責任が生じる可能性があります。

他方、自家用車で通勤中の交通事故について、判例は、純粋に通勤目的のためにだけ用いられており、一切業務で使用されていない場合には、使用者責任を否定しています。

しかし、近時の裁判例では、自家用車での通勤に対し通勤手当を支給していた事案において、使用者責任の成立を認めたものもありますので、注意が必要です。

まとめ

使用者責任が成立した場合に会社が免責されることはほとんどありません。

会社が使用者責任を問われると、高額な賠償金の支払いや企業イメージが傷つき多大な損害を被る可能性があります。

そのようなリスクを回避するためには、会社としては、従業員が不祥事を起こさないように事前に予防することが重要となってきます。

普段から従業員に対する研修・教育を徹底し、少しでも使用者責任が生じるリスクを減らすようにするとよいでしょう。

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