支払督促とは?やり方・強制執行・時効の取り扱いなどを解説

監修・執筆
阿部由羅 弁護士(あべ ゆら) 弁護士
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。一般民事から企業法務まで、各種の法律相談を幅広く取り扱う。webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
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債務者が任意に債務を弁済しない場合、裁判所を通じた簡易的な督促手段である「支払督促」を利用することができます。

支払督促を利用すると、場合によっては迅速に強制執行の手続きをとることができるため、債務不履行にお悩みの債権者は、利用を検討してみましょう。

この記事では、支払督促の概要・メリット・手順・やり方、さらに強制執行や消滅時効との関係性についてわかりやすく解説します。

支払督促とはわかりやすく言うと

「支払督促」とは、債権者の申立てにより、裁判所が債務者に対して、債務の支払いを督促する手続きです。

平時であれば、債権者は基本的に、自ら債権の回収を行います。

しかし、お金がない・そもそも支払う気がないなどの理由で、ある時点から債務の支払いが滞ってしまうケースがあります。

このように、債務不履行が発生し、債権者が自ら債権回収を行うことが難しい場合には、裁判所を通じて債務者に支払いを促すことができるのです。

支払督促を行うメリット

支払督促を行うことには、主に以下のメリットがあります。

簡易な手続きで裁判所に督促を依頼できる

支払督促は、裁判所を通じた法的手続きでありながら、訴訟に比べて非常に簡易な手続きによって利用することが可能です。

まず、支払督促を申し立てる際には「証拠資料の提出が不要」となっています。

請求の根拠を示す「請求の趣旨および原因」を記載した書面は提出しますが、記載事実を裏付ける証拠を提出しなくてよいのです。

証拠の提出が不要であることは、労力が軽減されるという点で、債権者にとっては大きなメリットといえます。

また、支払督促については書面審査しか行われないため、審理のために裁判所へ出頭する必要がない点も、債権者にとって負担の軽減に繋がります。

簡易的な手続きによって裁判所による連絡を行い、債務者にプレッシャーをかけることができる支払督促は、債権者にとって使い勝手のよい制度といえるでしょう。

裁判所に納付する手数料・費用が、比較的安い

支払督促は簡易な手続きであることを踏まえて、裁判所に納付する手数料・費用が訴訟の半額となっています。

  • (例)請求額100万円の場合の手数料
  • 訴訟の場合:1万円
  • 支払督促の場合:5000円

少しでも訴訟費用を軽減したい場合には、訴訟を提起する前に、支払督促を利用するとよいでしょう。

なお、支払督促に対して異議が申し立てられた場合は訴訟手続きに移行しますが、その際には、訴訟と支払督促の手数料の差額を納付すれば足ります。

債務名義を取得した後、強制執行が可能になる

支払督促に対して、2週間以内に適法な異議申立てが行われず、仮執行宣言付支払督促が発せられた場合、仮執行宣言付支払督促を債務名義として、強制執行の手続きをとることができます(民事執行法22条4号)。

仮執行宣言付支払督促に対しても、2週間の異議申立てが認められていますが、その期間が経過すれば、強制執行が差し止められることもなくなります。

訴訟によって債務名義(確定判決など)を得るためには数か月~1年以上を要することと比較すると、支払督促では数週間で債務名義が得られるため、スムーズに強制執行に移行できる大きなメリットがあります。

支払督促を利用する際の手順・やり方

支払督促を利用する場合、大まかに以下の流れ・やり方で手続きを踏む必要があります。

管轄する簡易裁判所を確認

裁判所に対して、支払督促の申立てを行いますが、申立先は、原則として「相手方(債務者)の住所地を管轄する簡易裁判所」です。

まずその点を確認しておきましょう。

必要書類を集める

必要書類等は以下を参照するほか、適宜裁判所の指示に従ってください。

参考:支払督促事件で使う書式(山口簡易裁判所オリジナル)|裁判所

<支払督促申立ての必要書類等>
・支払督促申立書 1部
(+当事者目録と請求の趣旨および原因の部分のコピー 債務者数+1部)
・収入印紙(手数料相当額)
参考:
手数料額早見表|裁判所
https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file3/315004.pdf
・封筒 債務者数+1枚
・郵便切手(金額は裁判所の指示に従う)
・官製ハガキ 債務者数と同じ枚数
・法人の商業登記簿謄本(債権者または債務者が法人の場合のみ)

申立書を受領した裁判所書記官は、支払督促の可否について審査を行います。

審査は書面上のみで行われることになっており、債務者の審尋は開催されません(民事訴訟法386条1項)。

支払督促の送達・債務者による異議申立て期間|2週間の数え方

支払督促の申立てのやり方が不適当である場合や、申立ての趣旨から請求に理由がないことが明らかである場合を除いて、裁判所書記官は、債務者に対して支払督促を発送します。

支払督促の送達を受けた債務者は、送達を受けた日から2週間以内に「督促異議の申立て」を行うことができます(民事訴訟法386条2項)。

なお「2週間」の数え方は、送達を受けた日の「翌日を1日目」として数えます。

仮執行宣言の申立てを行う

支払督促の送達から2週間以内に、債務者から適法な督促異議の申立てがない場合、債権者は仮執行宣言の申立てを行うことができます。

仮執行宣言の申立てに必要な書類は、以下のとおりです。

参考:支払督促事件で使う書式(山口簡易裁判所オリジナル)|裁判所

<仮執行宣言申立ての必要書類等>
・仮執行宣言申立書 1部
(+当事者目録と請求の趣旨および原因の部分のコピー 債務者数+1部)
・仮執行宣言付支払督促正本等の請書
・封筒 債務者数+1枚
・郵便切手(金額は裁判所の指示に従う)
・官製ハガキ 債務者数と同じ枚数

なお、仮執行宣言の申立てができる時から30日以内に申立てを行わない場合、支払督促が失効するので注意しましょう(同法392条)。

仮執行宣言付支払督促の送達・債務者による異議申立期間

仮執行宣言の申立てを受けた裁判所書記官は、宣言前に督促異議の申立てがあった場合を除き、仮執行の宣言を行います(民事訴訟法391条1項)。

仮執行の宣言は、支払督促に記載されたうえで、債権者および債務者に送達されます(仮執行宣言付支払督促。同条2項)。

仮執行宣言付支払督促に対しては、送達日から起算して2週間の異議申立期間が、再び設けられています(同法393条)。

【異議申立てがなかった場合】強制執行が可能

仮執行宣言付支払督促が債権者に送達(または送付)されると、債権者はそれを債務名義として用いて、強制執行の手続きをとることができます(民事執行法22条5号)。

債務者は、仮執行宣言付支払督促に対して督促異議の申立てを行えば、強制執行の停止を求めることができます(同法39条1項3号)。

ただし、仮執行宣言付支払督促の送達から2週間以内に、債務者から適法な督促異議の申立てがなかった場合、仮執行宣言付支払督促は確定し、それ以降督促異議の申立ては認められません。

【異議申立てがあった場合】訴訟手続きに移行

支払督促および仮執行宣言付支払督促のそれぞれについて、期間内に適法な督促異議の申立てがあった場合、自動的に訴訟手続きへと移行します(同法395条)。

この場合、支払督促の申立人は、訴訟と支払督促の手数料の差額を、裁判所に納付しなければなりません。

その後は、通常の訴訟手続きに則って、請求の可否を債権者・債務者間で争うことになります。

支払督促と消滅時効の関係について

支払督促の申立てには、対象となる債権の消滅時効の完成を阻止する効果があります。

現行民法において、支払督促が消滅時効に関して有する法的効果は、以下のとおりです。

支払督促が行われると、消滅時効の完成が猶予される

支払督促は、消滅時効の「完成猶予」事由とされています(民法147条1項2号)。

完成猶予とは、消滅時効の完成を一時的に猶予することを意味します。

つまり、消滅時効期間が経過しても、支払督促の効果が存続している限り、消滅時効が完成することはありません。

支払督促が確定すると、消滅時効が更新(旧「中断」)される

支払督促の効果は、2度の異議申立期間において、適法な督促異議の申立てがなかったことをもって確定します。

支払督促の効果が確定した場合、消滅時効は「更新」されます(民法147条2項)。

ここで言う更新(旧「中断」)とは、消滅時効をリセットし、ゼロからカウントし直すことを意味します。

したがって、支払督促の効果が確定した時点から、債権の消滅時効はカウントし直しとなるのです。

異議申立てにより訴訟手続きに移行した場合、完成猶予の効果が維持される

異議申立期間内に、適法な督促異議の申立てが行われた場合、支払督促の効果が確定することはありません。

その一方で、督促異議の申立てによって自動的に訴訟手続きへ移行するため、「裁判上の請求」により、消滅時効の完成猶予の効果が発生します(民法147条1項1号)。

つまり実質的には、支払督促から続いていた消滅時効の完成猶予の効果が、訴訟手続きへの以降によって維持されることになるのです。

なお、訴訟の判決によって債権が確定した場合には、支払督促の効果が確定した場合と同様に、消滅時効が更新されます(同条2項)。

まとめ

支払督促は、簡易的な手続きを通じて、債務を支払わない債務者に対してプレッシャーを与えることができる点で、債権者にとって使い勝手のよい制度です。

支払督促を申し立てる場合、証拠書類の添付は不要なので、準備の手間も比較的軽く済みます。

しかし、申立書の作成方法等については、法的な留意点が存在するため、弁護士に相談するのがスムーズです。

また、債務者が支払督促に対して異議を申し立てた場合、自動的に訴訟手続きに移行します。

訴訟手続きでは、証拠に基づく厳密な立証が必要となるため、早い段階で弁護士に相談することをお勧めいたします。

債権回収がうまくいかずにお悩みの方や、債務者に対する支払督促の申立てをご検討中の方は、ぜひ一度弁護士までご相談ください。

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