未払い工事代金の回収方法|利用可能な法的手段・注意点などを解説

受注した工事の代金が未払いとなった場合、建設会社の資金繰りは窮地に陥ってしまいます。スムーズに工事代金を回収するため、状況に応じて適切な法的手段を活用しましょう。

今回は、未払い工事代金の回収方法について、利用可能な法的手段や注意点などを解説します。

工事代金が未払いとなった場合の対処法

工事代金が未払いとなった場合、その直後の段階で講ずべき対応は、施主と直接契約している場合と、元請事業者と下請工事契約を締結している場合で異なります。

施主と直接契約している場合|同時履行の抗弁権を主張する

施主と直接工事請負契約を締結している場合、工事代金が未払いとなった際には、「同時履行の抗弁権」(民法533条)を主張して建物の引渡しを拒否することになります。

同時履行の抗弁権とは、相手が債務の履行を提供するまでの間、自分の債務の履行を拒むことができる権利です。工事請負契約の場合、施主が工事代金を支払うまでは、建設会社(請負人)は建物の引渡しを拒否できます。

建物の引渡しを保留した状態で、工事代金の未払いが長引くようであれば、本格的に債権回収へと移行しましょう。

下請事業者の場合|元請事業者に対する引渡しと代金支払いを請求できる場合がある

元請事業者と下請工事契約を締結している場合、工事代金(下請代金)の支払いは元請事業者から受けることになります。

下請代金の支払いは、原則として、元請事業者が施主から工事代金の支払いを受けた日から1か月以内で、かつできる限り短い期間内に行われます(建設業法24条の3第1項)。
したがって、施主が工事代金を支払わない限り、下請事業者は下請代金の支払いを受けられないのが原則です。

ただし、元請事業者が「特定建設業者※」の場合には、施主が工事代金を支払わない場合でも、元請事業者から下請代金の支払いを受けられることがあります。

※特定建設業者:受注した建設工事の全部または一部を、工事代金4,000万円以上(建築工事の場合は6,000万円以上)で下請発注することを許可された建設業者(同法3条1項2号、6項、17条、同法施行令2条)。

特定建設業者である元請事業者によって、建設工事完成の確認検査が完了した後※であれば、下請事業者は元請事業者に対して申出を行い、建設工事の目的物(建物)を引き渡すことができます(同法24条の4第2項)。
※下請契約において、工事完成から20日以内の一定の日に引渡しを受ける旨が特約されている場合は、その日

この場合、特定建設業者である元請事業者は、下請事業者による申出の日から50日以内で、かつできる限り短い期間内に下請代金を支払わなければなりません(同法24条の6第1項)。

特定建設業者から下請発注を受けている場合には、上記の各ルールに従い、建設業法に基づく下請代金の支払いを求めましょう。

未払いの工事代金を回収する方法

施主や元請事業者から工事代金(下請代金)が支払われない場合、以下の方法を用いて債権回収を行いましょう。

内容証明郵便で支払いを催告する

本格的に債権回収へ移行した旨を施主や元請事業者に伝えるためには、内容証明郵便によって工事代金(下請代金)の支払いを催告する方法が効果的です。特に、弁護士名で内容証明郵便を発送することで、支払いを強く求めるメッセージを伝えられます。

また後述するように、工事代金請求権には消滅時効が設けられていますが、内容証明郵便で支払いを催告すると、消滅時効の完成を6か月間猶予する効果が発生します(民法150条1項)。

支払い方法を再協議する

施主や元請事業者の側に資金繰りの問題がある場合には、支払い方法を再協議のうえ合意し直すことも検討すべきです。強制的な手段に打って出るよりも、現実的な支払いスケジュールを再設定した方が、結果的に工事代金の回収可能性を高められるかもしれません。

ただし、あまりにも不合理なスケジュールを提示された場合には、早期の工事代金回収を目指し、協議を打ち切って法的手段を講ずることも検討しなければなりません。

裁判所に支払督促を申し立てる

支払督促は、金銭債権回収のために利用できる、比較的簡易な法的手続きです。

参考:支払督促|裁判所
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_minzi/minzi_04_02_13/index.html

支払督促の申立先は、相手の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官です。支払督促を申し立てると、裁判所から債務者に対して、債務の支払いを求める督促(支払督促)が送達されます。

支払督促の送達後、2週間以内に適法な異議申立てがなければ、債権者はさらに仮執行宣言付き支払督促を申し立てることができるようになります。裁判所によって発せられた仮執行宣言付き支払督促は、強制執行の債務名義として用いることができます。

ただし、支払督促または仮執行宣言付き支払督促に対して、適法な異議申立てが行われた場合には、自動的に訴訟手続きへ移行する点に注意が必要です。

訴訟を提起する

裁判所に工事代金請求訴訟を提起すると、工事代金請求権の存否等につき、公開法廷における審理が行われます。債権者は、工事代金請求権が存在すること等について、証拠に基づき立証しなければなりません。

工事代金の請求を認める判決が確定すれば、確定判決を強制執行の債務名義として用いることができます。

強制執行を申し立てる

仮執行宣言付き支払督促や確定判決などの債務名義(民事執行法22条)を取得したら、債務名義に基づいて強制執行を申し立てることができます。

ただし、強制執行を申し立てる際には、差し押さえるべき債務者の財産を特定しなければなりません。例えば、預貯金口座を差し押さえるならば、金融機関名と支店名を特定する必要があります。

また、工事代金回収を目的とした強制執行のケースでは、債務者が工事場所の土地所有者であるケースも多いです。その場合、登記簿の情報を参照すれば土地を特定できます。

未払い工事代金に関して知ってお くべきこと|Q&A形式で解説
  • 特定建設業者の立替払い制度とは?
    特定建設業者である元請事業者からの下請代金の支払い遅延により、下請事業者による従業員への賃金支払いが困難となった場合には、国土交通大臣または都道府県知事が元請事業者に対して、賃金相当額を立替払いすることを勧告することができます(建設業法41条2項)。

    ただし、立替払いの勧告はあくまでも、国土交通大臣または都道府県知事の裁量によって行われます。下請事業者が上申書を提出することなどはできますが、必ずしも要望どおりに勧告が行われるわけではない点に注意しましょう。
  • 工事代金請求権の消滅時効は?
    2020年3月31日以前に適用されていた旧民法では、工事代金請求権の消滅時効は「工事終了時から3年間」とされていました(旧民法170条2号)。
    これに対して、2020年4月1日に施行された新民法では、工事代金請求権の消滅時効は「権利を行使できることを知った時(≒工事終了時)から5年」(民法166条1項1号)とされています。

    どちらの消滅時効期間が適用されるかは、工事請負契約が締結された日によって決まります。すなわち、2020年3月31日までに工事請負契約が締結された場合には「3年」、2020年4月1日以降に締結された場合には「5年」が適用されます。

    工事代金請求権の消滅時効完成が迫っている場合には、内容証明郵便の送付によって消滅時効の完成を猶予したうえで、訴訟提起などの準備を迅速に進めましょう。
  • 契約書がなくても、未払い工事代金の回収は可能?
    工事請負契約書の作成は、建設業法19条1項によって義務付けられています。そのため、工事請負契約書がないという事態は本来想定されず、仮に作成されていない場合には建設業法違反となってしまいます。

    工事請負契約書がなかったとしても、メールなど別の媒体でのやり取りから、工事代金額や支払い条件などを立証できれば、工事代金の支払いを請求すること自体は可能です。

    しかし、契約書がある場合よりも立証は困難になりますし、そもそも契約書を作らないことは建設業法違反ですので、工事請負契約書は必ず作成してください。
  • 工事代金の未払いについて、刑事告訴をすることは可能?
    工事代金の未払いは、あくまでも当事者同士で解決すべき民事上の問題ですので、警察が介入することは基本的にありません。

    ただし、当初から工事代金を支払う気が一切なかった場合には、「詐欺罪」(刑法246条1項)が成立する余地がありますので、この場合は警察に相談してみるのも一案でしょう。
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