労災隠しとは|罰則・ペナルティ、会社の責任などを解説

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弁護士相談Cafe編集部
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業務中や通勤中の出来事が原因となって傷病が生じた場合には、被災労働者は、「労災保険」から一定の補償を受けることができます。

しかし、事業者の中には、労災事故が発生したことが明らかになると企業のイメージが害されたり、労災保険料が増額してしまうなどの理由から労災事故の発生を隠そうとすることがあります。このような「労災隠し」を行った場合には、事業者に対してさまざまなペナルティが課されることになります。

今回は、労災隠しによる罰則・ペナルティや事例、労災が発生した場合の会社の責任、労災隠しによる労働者本人へのデメリットなどについて解説します。

1. 労災隠しとはどのようなもの?

そもそも「労災隠し」とはどのようなことをいうのでしょうか。以下では、労災隠しに関する基本的な事項について説明します。

1-1. 労災とは

まず、労災とは、「労働災害」の略であり、労働者が業務中や通勤中の出来事が原因となって、傷病を負うことをいいます。

労災のうち、業務中の出来事が原因となって生じる傷病のことを「業務災害」といい、通勤中の出来事が原因となって生じる傷病のことを「通勤災害」といいます。

労災によって傷病を負った労働者は、労働基準監督署による労災認定を受けることによって、労災保険から以下のような補償を受けることができます。なお、労災保険への請求には、期間制限がありますので、一定期間が経過した場合には時効によって請求することができなくなります。

①療養(補償)給付

療養(補償)給付は、療養の費用を支出した日の翌日から2年で時効になります。

②休業(補償)給付

休業(補償)給付は、賃金を受けない日の翌日から2年で時効になります。

③障害(補償)給付

障害(補償)給付については、傷病が治癒した日の翌日から5年で時効になります。

④遺族(補償)給付

遺族(補償)給付については、被災労働者が亡くなった日の翌日から5年で時効になります。

⑤葬祭料(葬祭給付)

葬祭料(葬祭給付)については、被災労働者が亡くなった日の翌日から2年で時効になります。

⑥傷病(補償)年金

傷病(補償)年金は、労働基準監督署長の職権により支給されるため、時効はありません。

⑦介護(補償)給付

介護(補償)給付については、介護を受けた月の翌月1日から2年で時効になります。

1-2. 労災隠しとは

労災事故のうち業務災害が発生した場合には、事業者は、「労働者死傷病報告書」を労働基準監督署長に提出しなければなりません(労働安全衛生法100条、同規則97条)。

しかし、事業者の中には、労災事故の発生の事実を隠すために、故意に労働者死傷病報告書を提出しないこと、または、労働者死傷病報告書に虚偽の内容を記載して提出することがあります。これらの行為を「労災隠し」といいます。

労災隠しが行われた場合には、被災労働者が労災保険から本来受けることができるはずであった、上記の各種給付を受ける権利を奪うことになります。また、労働基準監督署による労災事故の発生原因の調査が行われない結果、再発防止に向けた措置をとることもできません。

そのため、厚生労働省では、事業者に対し、「労災かくしは犯罪です」と呼びかけるなどして、適切な手続きを行うように求めています。

1-3. 労災隠しが起きる理由・事例

事業者が労災隠しをしようとする理由・事例にはさまざまなものがありますが、よくある理由としては、以下のものが挙げられます。

  • ①労働基準監督署による調査が行われると労働関係法規違反の事実が発覚してしまうから
  • ②労災事故によって労災保険料が上がってしまうから
  • ③労災事故によって企業のイメージを損ねてしまうから
  • ④労災保険の申請手続きが面倒であるから

しかし、どのような理由があったとしても、労災隠しをすることは許されませんので、労災事故を認知した場合には、必ず、所定の手続きを行うようにしましょう。

2. 労災隠しのペナルティ

労災隠しをした場合には、労災隠しをした事業者に対して以下のような罰則・ペナルティが課されることになります。

2-1. 刑事上の責任

労災事故のうち業務災害が発生した場合には、事業者は、「労働者死傷病報告書」を労働基準監督署長に提出しなければなりません(労働安全衛生法100条、同規則97条)。労働者死傷病報告書を故意に提出しなかったり、虚偽の内容を記載して提出した場合には、50万円以下の罰金に処せられます(労働安全衛生法120条、122条)。

このように労災隠しは、犯罪ですので、労災隠しの事実が世間に知られることになれば、企業のイメージダウンは避けられません。取引先からも取引を打ち切られるなどの対応を受けることになれば、企業の被るダメージは計り知れないものとなります。

2-2. 労働基準監督署による調査

労災事故が生じた企業に対しては、その原因究明と再発防止を目的として、労働基準監督署の労働基準監督官が立ち入り調査を行うことがあります。これを「災害時監督」といいます。

労働基準監督署の調査では、労災事故の発生原因だけでなく、人事労務管理などさまざまな事項が調べられますので、調査の結果、労災事故とは別の労働関係法規違反の事実が明らかになることもあります。

労働者の安全管理に問題があったり、労働関係法規違反の事実があった場合には、労働基準監督官から是正勧告や指示が行われます。

事業者としては、決められた期日までに是正報告書などを提出しなければならず、それを怠った場合には、労働基準監督官によって、検察庁へ送検処分をされる可能性があります。

送検処分をされた場合には、違反内容に応じて刑事罰が科される可能性があります。

2-3. 労災保険料の徴収

労災保険のメリット制が適用される事業所においては、労災の発生件数に応じて、労災保険料が変動することになります。

メリット制とは、労災保険料の決定にあたって、個別の事業ごとの事情や事故防止のための努力などを労災保険料に反映させることによって、企業間の公平性を確保しようとする制度のことです。

メリット制が適用されるのは、以下のいずれかの要件を満たした企業ですが、中小企業では、この要件を満たさずメリット制の適用外となっていることが多いです。

  • ①100人以上の労働者を使用した事業であること
  • ②20人以上100人未満の労働者を使用した事業であり、災害度係数が0.4以上であること

2-4.労働者本人への罰則はなし

なお、労災隠しは、事業者に非がある行為ですので、労働者本人に対して罰則・ペナルティが課されることはありません。

3. 労災が発生した場合の会社の責任

労災事故が発生した場合には、被災労働者は、労災保険から一定の補償を受けることができますが、労災保険からの補償だけでは不十分な場合があります。そのような場合には、以下のような理由に基づいて会社に対して損害賠償請求をされる可能性があります。

3-1. 使用者責任

民法715条1項では、被用者(従業員)が業務を行うに際して、第三者に損害を加えた場合には、使用者がその損害を賠償する責任を負うと定められています。このような責任を「使用者責任」といいます。

使用者責任は、被用者の活動によって利益を上げているのであるから利益の存するところに損害も帰すべきであるという「報償責任」や人を使用して活動範囲を拡大している以上、その危険を支配する者が責任を負うべきという「危険責任」を根拠にしています。

会社の従業員が故意または過失によって、他の従業員を負傷させたような場合には、加害者の従業員とともに会社も損害賠償責任を負うことになります。

3-2. 安全配慮義務違反

労働契約法第5条では、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と定められています。

この規定からも明らかなように、会社には労働者が安全に仕事をすることができるような環境を整備する義務があります。このような義務のことを「安全配慮義務」といいます。

会社が安全配慮義務を怠ったことによって、労災が発生し、労働者が傷病を負った場合には、会社は安全配慮義務違反を理由とした損害賠償責任を負うことになります。

4. まとめ

労災隠しは犯罪です。労災隠しが判明した場合には、刑事罰を科されるだけでなく、企業のイメージや信頼が大きく傷つくことになり、それによって回復困難な損害を負うこともあります。

事業所内で労災事故が発生した場合には、「労働者死傷病報告書」を労働基準監督署長に提出するなどして適切な対応を行うように心がけてください。

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