財産分与の対象にならないもの|結婚前の貯金や親からの贈与はどうなる?
離婚時の財産分与について、ギャンブルでできた借金や結婚前からあった財産などを例として、実際の財産分与について詳しく見…[続きを読む]
このように、夫(旦那)や妻(嫁)の借金に悩みを持っている方は多いです。
内緒で借金をしていたならば怒りや悲しみの感情が湧くのは当然のことですし、途中までは協力して返済していた場合もこれが長引けば精神的にかなり疲弊してしまいます。
しかし、借金が理由で離婚したいと切り出しても、相手方がこれを拒否するケースは多いです。
何かと理由をつけて言いくるめられてしまい、結果的に家庭が困窮してしまうことは珍しくありません。
今回は、配偶者の借金を理由に離婚できるのか、夫の借金や妻の借金の返済義務はあるのか、離婚後のお金に関する問題・権利関係について分かりやすく解説していきます。
目次
まず、夫や妻が勝手に(内緒で)借金したことを理由として、法的に離婚することはできるのか?を確認していきましょう。
借金などお金の問題を理由に離婚をすることができるのか?という問いに対する答えは、基本的には「Yes」です。
しかし、厳密には離婚の方法によって答えは異なります。
離婚の方法は、以下の3つに大きく分けることができます。
それぞれ、離婚が成立するまでの過程が異なります。
「協議離婚」は、双方の話し合いにより離婚を決定する離婚の方法です。
協議離婚では、夫婦の双方が離婚するということに納得した上で離婚することになりますので、離婚する理由は問われません。
そのため、相手方を納得させることさえできれば、夫または妻の借金を理由として離婚することができます。
「離婚調停」は、離婚に関する協議をしても夫または妻の片方が離婚に合意しない場合に、家庭裁判所を通して手続きを行う離婚の方法です(調停は協議をしない状態から申し立てることもできます)。
離婚調停」場合も、協議離婚の場合と同じく、夫婦双方の話し合いがまとまれば離婚することができますので、離婚する理由は問われません。
そのため、夫また妻の借金を理由として離婚することができます。
離婚調停でも夫婦双方の間で離婚の条件に合意が得られない場合には「離婚裁判」が行われます。
この場合、離婚の理由は民法に規定されている項目に当てはまる必要があります。
つまり、借金やお金の問題が民法に抵触していれば離婚ができますし、そうでなければ離婚はできないということです。
では、離婚裁判について詳しく確認していきましょう。
離婚裁判によって離婚が認められるためには、離婚の理由が民法第770条1項で定められている以下の5つのいずれかに当てはまらなくてはなりません。
以上からわかるように、民法には借金をしていたという事実だけで離婚できるとは記載されていません。
そのため、単に夫または妻が借金をした(勝手に借金をしていた)という事実だけでは、離婚することはできないのです。
しかし、夫または妻の借金が婚姻を継続しがたい重大な事由にあたれば離婚は認められるとされています。
では、婚姻を継続しがたい重大な事由とはどのようなことを指すのでしょうか?
借金に関わるもので、婚姻を継続しがたい重大な事由の例を挙げてみます。
配偶者の借金をしたという事実のみでお金の問題を理由にしても離婚することはできませんが、上記のように借金を理由に婚姻関係を継続することが難しくなったという事実があれば、離婚をすることが可能です。
「自分に夫の借金の返済義務が生じるなら離婚をしたいが、そうでないなら子どものためにも離婚は避けたい」「別れた旦那の借金を負いたくない」「離婚をした後に債権者から元嫁の借金を返済しろと請求されたらどうしよう?」というようなお悩みもあることでしょう。
相手の借金は負いたくないと思うのは当然ですが、夫または妻の借金は自分(配偶者)も返済しなければならないのでしょうか?
配偶者の借金に対して、婚姻期間中あるいは離婚後に自分にも返済義務があるかどうかは、事例によって異なります。
夫または妻の借金の連帯保証人となってしまっている場合には、借金の返済義務があります。
この場合は、婚姻中はもちろん、離婚後であっても主債務者が払えなくなった借金を代わりに返済しなくてはなりません。
しかし、夫または妻が勝手に連帯保証人に設定した場合は、この連帯保証契約は無効となります。
よって、「知らないうちに借金の保証人になっていた」というようなケースでは、支払い義務を負うことはないでしょう。
婚姻中に夫婦の共同生活で発生した借金は、「共有財産」となり、財産分与の対象となります。
財産分与の対象は、家や車などだけではありません。借金などもマイナスの資産も財産分与の対象として含まれます。
もちろん全ての借金が財産分与の対象となるわけではなく、あくまでも夫婦の共同生活で発生した借金のみです。
具体例をいくつか挙げておきます。
これらの借金がある場合に離婚をすると、財産分与により借金の一部を返済する義務が生じる可能性があります。
財産分与に関しては、詳しくは以下の記事をご参照ください。
【財産分与のポイント】
債務(借金)がある場合、財産分与の金額にどのような影響をもたらすのかを簡単にご説明します(下記はあくまで一例で、財産分与の割合は話し合いにより自由に決めることができます)。
財産が借金よりも多い場合には、財産から債務をひいた額を2人で分配することとなります。例えば夫に2000万の財産と800万の債務があり、妻には財産も借金もないような場合には、(2000万−800万)÷2=600万円が妻に支払われます。夫には、2000万−600万=1400万円の財産が残りますが、800万の債務に対して返済を行うと1400万−800万=600万と妻と同額になり、夫と妻の間で平等に財産分与が行われたこととなります。
一方で債務が財産よりも多いような場合には、債務を抱えていない側は財産分与が受け取れません。その代わり借金を負うこともありません。例えば夫に800万の財産と2000万の債務があり、妻には財産も借金もないような場合には、夫には800万円の財産と2000万円の負債がそのまま残り、妻は財産を得られない代わりに、負債も負わないこととなります。
一方で、返済義務を負わない借金も存在します。
配偶者と結婚する前に相手が既に負っていた借金については、基本的には返済する必要はありません。これは、夫婦の共同生活で発生した借金とは言えないからです。
しかし婚姻前からの借金であっても、交際時に相手が借金をしてその連帯保証人になっていたような場合には、返済義務を負うこととなります。軽い気持ちで連帯保証人になることは避けるべきでしょう。
夫婦の共同生活のためではなく、あくまでも自分の都合でつくった借金であった場合には、財産分与の対象とはなりません。これは婚姻中の借金であっても同様です。
例えば、ギャンブルでできた借金や、自分のためにした収入に見合わない高額な買い物(ショッピング)による借金などです。
借金を理由とした離婚に踏み出す場合、「離婚の原因は向こうにあるのだから、慰謝料を払ってもらいたい」と考える方は多いでしょう。
結論から言えば、離婚の原因が単なる借金であるならば、基本的に慰謝料を請求するのは難しいです。
借金と浪費によって夫婦関係を破綻させた場合や、借金による困窮で精神的苦痛を受けたなどの事情によっては、相手に借金があっても慰謝料を請求することは可能ですが、借金の返済に追われる元配偶者から慰謝料を満足に受け取るのは現実的ではないケースが多いでしょう。
さらに、仮に慰謝料を請求できても、相手が自己破産をした場合には免責事由が存在します。
これは、相手が自己破産した場合には慰謝料を請求することができなくなってしまうというものです。借金の理由に悪意があればそれに関する慰謝料は自己破産をしても免除されませんが、通常、ただの借金であればそこまでの悪質性は認められないでしょう。
どちらにせよ覚えておかなくてはならないのは、裁判によって離婚する場合、慰謝料の金額は借金のある配偶者の資産状態を考慮して決定されますので、慰謝料相場の金額や希望通りの慰謝料を得るのは難しい場合が多いということです。
「借金がある相手に子どもは任せられない!」と思う方も多いです。
そこで、相手に借金があって離婚することになった場合、子どもの親権・養育費はどのようになるのか解説していきます。
借金があるということは、親権について審議するうえでの判断材料にはなりますが、直接的に関係してくるものではありません。
そもそも親権とは、父・母のどちらが養育を行ったほうが子どもの幸せにとって良いのかという視点から判断するもので、その中の判断材料の1つとして経済的な状況が挙げられるに過ぎないのです。
借金があっても子どもの育児をきちんと行っていて、さらに子どもの健全な成長に悪影響を及ぼすような状況でない場合には、借金があっても親権を得る場合もあります。
つまり、借金があると親権は取れない、ということはないのです。
一方で、どんなに子どもに対しての十分な愛情があり、しっかりとした養育を行っていたとしても、子どもの健全な成長に決定的な悪影響を及ぼすと判断される程の借金を抱えている場合には、親権の決定に大きな影響を及ぼすこととなります。
子どもに十分な食事を摂らせることもままならない、教育費を払えないといった事情があれば、それは親権の決定において大きな障害となるでしょう。
「子どもが悪影響を受ける借金の金額」がいくらかは気になるところですが、祖父母の状況や子どもの年齢・人数などそれぞれの家庭環境によってその都度異なりますので、一概には言えません。心配な方は弁護士に確認してみると良いでしょう。
離婚をしても、子どもにとっての親であることに変わりはありません。
親権を得られなかった親であっても、離婚後にも子どもを育てる義務があり、養育費を支払う義務があります。
子どもを引き取ることになった親権者は、相手に対して養育費を請求することができます。
これは相手が借金を負っている場合でも同様で、養育費に関しては相手が仮に自己破産した場合でも免責されることはありません。子どもが健全に成長するためのお金については、どのような理由があろうと支払い義務は消えないのです。
むしろ、相手が養育費を支払えないほどの借金を負っている場合には、相手方に債務整理を促しましょう。借金を債務整理で整理することができれば、養育費を支払えるだけの余裕が生まれるケースもあります。
また離婚前に養育費の取り決めをしても、支払われなくなってしまう(未払いが発生する)というケースも少なくありません。
このような場合には、相手の給料を差し押さえ、強制執行という形で回収することになります。
養育費について詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
今まで述べてきたような財産分与・慰謝料・養育費など、離婚後の生活に関わるようなことに関しては、離婚する前に「離婚協議書」にまとめることをおすすめします。
「離婚協議書」を作成しておくことで、離婚後のトラブルを最小限に留めることが可能となります。
離婚協議書を作るときには、公正証書として作成することをおすすめします。
養育費や慰謝料などに関してただ文書を作成しておくだけではなく、公正証書化することで、万が一離婚後に約束が果たされなかった場合にも、裁判で公正証書を作成した本人が合意したことを証明することができます。
慰謝料や養育費の支払いなどは金銭に関わる問題ですので、相手に借金があるような場合には、特に不履行のリスクが高まります。
お金に関わる部分だけでも必ず公正証書化するようにしましょう。
離婚協議書を公正証書で作成したほうがいい理由については、以下の記事に詳しく記載されていますので、ぜひご覧ください。
今回は、借金やお金のトラブルを理由とした離婚について解説しました。
借金癖はなかなか治るものではありませんが、改善策もあります。特に子どもがいる場合や、生活費のための借金である場合には、焦って離婚を考えずに落ち着いて決断することが大切です。
その上で、やはり借金を理由とした離婚を決意された場合には、できる限り今後の人生が安定したものとなるような工夫が必要です。
豊富な知識と経験を持つ弁護士に相談することをおすすめします。