支払督促の流れと対処法|無視・放置は厳禁!強制執行の危険

支払督促の対処法|無視・放置は厳禁!強制執行の危険
  • 支払督促を無視・放置しているとどうなるの?

裁判所から「支払督促」を受け取ったら、無視したり、放置したりしてはいけません。そのままでは、強制執行で給与や財産を差し押さえられてしまう危険が高いです。

たとえ債権者の言い分が事実でも、「異議申立て」を行って裁判所に出頭すれば、裁判所の仲介で無理のない分割払いの協議がまとまる可能性が高くなります。

本記事では、借金の滞納で「支払督促」が届いた場合の正しい対処方法を解説します。無視・放置は厳禁!強制執行の危険を理解しましょう。

支払督促とは

「支払督促」制度とは、債権者が簡易・迅速に借金を回収するための法的手続です(民事訴訟法382条以下)。

この手続では、債権者の申立書を簡易裁判所の書記官が審査します。書面上、法的な主張として整っていれば、書記官は金銭を支払えと命ずる書面を債務者に送ります。この書面が「支払督促」です。

詳しくは後に説明しますが、支払督促手続をとれば、債権者は「仮執行宣言」を得て、さらに強制執行に手続を進めることができます(民事執行法22条4号)。
債務者の土地や家、預金、車、給与などの財産を差し押さえて、債権を強制的に回収できるようになるのです。

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このような書面上での債権者の一方的な言い分だけで債権を強制的に回収できる制度が必要とされる理由は、債権者と裁判所の負担を減らすためです。

例えば、「AがBに貸した100万円の返済を求める」という場合、AがBの財産に強制執行を行うには、裁判所に訴訟を提起し判決を確定させることが必要で、時間も手間もかかります。

しかし、借金をめぐる問題では、「借りたのは事実だが、Bが一向に返してくれない」というケースがほとんどです。このような単純な事案でも、常に裁判所に訴訟を提起してなくては強制執行まで進めないというのでは債権回収のコストが大きすぎ、円滑な資金融資を阻害します

そこで、通常訴訟によらない簡易迅速な債権回収制度を創ったのです。裁判官ではなく、書記官が債権者の言い分だけを書面で審査すれば足りることにしたのもこれが理由です。

【債務者の利益も守られている】
支払督促制度は、債権者と裁判所の負担軽減を目指した制度です。ただ、上記だけ見ると、債務者側からしてみればあまりにも不平等に感じるでしょう。債務者にも簡単に支払督促手続の進行を阻止し、通常裁判に移行させる対抗手段を与えなくてはバランスを失します。
そこで債務者には、支払督促に対して異議を申し立てる「督促異議(異議申立て)」の制度が認められています(386条2項)。督促異議を申し立てると、自動的に手続は通常訴訟に移行し、債権者と債務者の言い分を裁判官が審理することになります。
具体的には、督促異議が出ると、支払督促申立ての時点で通常訴訟の提訴があったものとして扱われ、請求額の多寡によって簡易裁判所(140万円以下)または地方裁判所(140万円超)が担当します。

支払督促手続の流れ

では、支払督促の手続の流れを説明します。

債権者の申立てと支払督促の送付

債権者が簡易裁判所に申立書を提出すると、書記官が記載内容を審査し、問題がなければ「支払督促」の書面を債務者に送付します。

支払督促を受け取った債務者は、督促異議を提出できます。異議申立てをすれば、事案は自動的に通常訴訟の手続に移行します。
その後、改めて裁判所から、通常訴訟のために出頭するよう呼出状が送られてきます。

債権者による仮執行宣言の申立て

一方、債権者は支払督促の申立てと同時またはその後に、支払督促に「仮執行宣言」をつけるよう裁判所に申し立てることができます。

仮執行宣言とは、平たく言えば、「法的権利の有無・内容について裁判所の最終的な結論が確定する前であっても強制執行を許す」というお墨付きです。これを入手できるからこそ、支払督促は簡易・迅速な債権回収手段となるのです。

仮執行宣言が出される前に債務者が異議を申し立てれば、支払督促は失効するので、仮執行宣言を阻止することが可能です。

ただし、そのためには支払督促を受け取ってから2週間以内の異議申立てが必要です。2週間経過後でも、督促異議を出せば通常訴訟での審理を求めることは可能ですが、仮執行宣言は阻止できません。

反面、債権者の方も、仮執行宣言の申立ては債務者が支払督促を受取って2週間経過した時から30日以内に行うことが要求されています。これを過ぎると、せっかくの支払督促が失効扱いとされます。

「仮執行宣言付き支払督促」の送付・強制執行

仮執行宣言の申立てがなされると、書記官は、「仮執行宣言付き支払督促」を債務者に送付します(391条2項)。

債務者は「仮執行宣言付き支払督促」を受け取った後でも、2週間以内に督促異議を申し立てれば、通常訴訟での審理に移行させることができます。

ただし、督促異議を申し立てたからといって、それだけで「仮執行宣言付き支払督促」を失効させることはできません。
この段階で強制執行をストップさせるには、別途、裁判所に対し、「執行停止」の手続を申し立てなくてはなりません(民事執行法403条1項3号)。

他方、「仮執行宣言付き支払督促」の受領から2週間を過ぎると、債務者はもはや督促異議を申し立てることもできなくなります。これで支払督促の手続は終了し、支払督促は確定判決と同一の効力を持つことになります。

ただし、支払督促が確定しても、それに基づく強制執行の適法性を「請求異議の訴え」という手続で、さらに争うことは可能です(民事執行法35条1項後段)。

支払督促の正しい対応策|異議申し立て

督促異議を申し立てる方法

上記の通り、強制執行を避けるために大事なのは「督促異議」を申立てる(異議申立てをする)ことです。

やることとしては、書記官から「支払督促」または「仮執行宣言付き支払督促」が送付される際、異議を申し出るための「督促異議申立書」が同封されていますので、これに異議がある旨を記載して提出するだけです。

督促異議は、「通常の訴訟手続で審理して欲しい。支払督促という簡略化された手続を進めるのは反対である」という意思表明ですから、手続に異議があることだけ明らかにすればよく、異議の理由は問題になりません。

ただ、督促異議申立書には、異議の理由を記載する欄も設けられていますので、意見があればここに記載しても良いでしょう。
「借金などしていない」「借金はしたが金額が違う」「もう返済した」「一括では返せないので、分割払いをしたい」などが考えられます(もちろん、何も理由を記載しなくとも問題ありません)。

裁判所での和解のポイント

督促異議を提出した後には通常訴訟が行われますから、裁判所の呼び出しに応じて指定された期日に裁判所に出頭します。

その際、分割払いを希望するなら、裁判官や裁判所の司法委員を仲介役として、債権者と話合いを行うことも可能です。
分割払いの合意がまとまれば、裁判所が和解調書を作成してくれます。

裁判所から送られてくる督促異議申立書には、分割払いを希望する場合の毎月の希望金額を記載する欄があります。
これを記載して提出しておけば、裁判所も債権者も通常訴訟の期日前に分割案を検討することができますから、話合いが早く進むメリットがあります。

支払督促を受け取ったら時効に注意

支払督促を受け取ったら特に注意していただきたいのが、消滅時効の問題です。

借金は、①債権者が権利を行使することができることを知った時から5年、または②権利を行使しうる時から10年を経過すると時効により消滅し、債務者の返済義務はなくなります(民法166条1項)。
しかし、支払督促の申立てがあると、たとえ手続中に時効期間が経過しても、時効の完成は猶予され、債権は消滅しません。

この場合、債権者が支払督促を取り下げても、そこから6ヶ月間は時効の完成が猶予されます(民法147条1項2号)。

また、仮執行宣言付き支払督促が確定判決と同一の効力を有するに至った場合は、時効は更新され、その時点から新たな時効期間がスタートします。

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支払督促には消滅時効の完成を阻止する効果

このように、支払督促には消滅時効の完成を阻止する効果があるので、「支払督促が届いたけれど、もうすぐ時効だから放っておいて大丈夫だろう」というのは大きな間違いです。
既に時効期間が経過し、消滅時効が成立しているにもかかわらず、貸金業者や債権回収会社があえて支払督促を申し立てるケースが多々あります。

消滅時効は、時効期間が経過しただけでは法的効力は発生しません。債務者が時効を「援用」する必要があるのです(民法145条)。援用とは、消滅時効が完成したと債権者に主張することです。
債務者が、この援用が必要であることを知らず、時効で債務が消滅していると誤解して強制執行を受ける危険があるのです。

支払督促が送付された以上は放置せず、督促異議申立書に「消滅時効を援用します」と明記して裁判所に提出するべきです。

これを提出しておけば、裁判所を通じて、債務者が消滅時効を援用することが債権者にも伝わりますので、通常、債権者である業者は支払督促を取り下げるでしょう。

支払督促に関するよくある質問

簡易裁判所の支払督促を無視するとどうなる?

支払督促の無視を続けると、債権者は債務者に対して強制執行をすることが可能になります。

強制執行とは、債権者が繰り返し督促をしても債務者が債務(借金)を弁済しない場合、債権者が裁判所で手続きをすることで、国家権力が債務者の財産を差し押さえ、支払いを実行させることです。

強制執行による差し押さえの対象は、給料・金融機関の口座(預貯金)・不動産・動産・66万円を超える現金・有価証券・債務者が持っている他人への債権など、多岐に渡ります。
(動産とは要するに「不動産以外のもの」のことで、宝石などの貴金属、骨董品、自動車などがこれに相当します。)

実務上で最も多く差し押さえられるのは「給料(給与)」です。
差し押さえられるのは一定額だけ(原則として、税金等を控除後の給与の4分の1)なので、全ての収入源が絶たれてしまうわけではありません。しかし、借金が完済できるまで差し押さえは続きますし、借金滞納・差し押さえの事実は会社にバレてしまいます。

口座を差し押さえられると、通帳に「サシオサエ」と記載され、残高が0円になることもあります。

支払督促の流れは?

支払督促手続をとれば、債権者は「仮執行宣言」を得て、さらに強制執行に手続を進めることができます(民事執行法22条4号)。
債務者の土地や家、預金、車、給与などの財産を差し押さえて、債権を強制的に回収できるようになるのです。

支払督促の流れは以下の通りです。

  1. 債権者が簡易裁判所に申立書を提出
  2. 書記官が記載内容を審査し、支払督促を債務者に送付
  3. 債権者による仮執行宣言の申立て
  4. 書記官が「仮執行宣言付き支払督促」を債務者に送付
  5. 2週間経過後、支払督促は確定判決と同一の効力を持つ
  6. 債権者による強制執行

債務者としては、書記官から「支払督促」または「仮執行宣言付き支払督促」が送付される際、異議を申し出るための「督促異議申立書」が同封されていますので、これに異議がある旨を記載して提出することが必要です。

異議を出せば、事案は自動的に通常訴訟の手続に移行しますので、そこで分割払いなどの和解交渉をすることになるでしょう。

まとめ

支払督促を無視・放置すれば、強制執行を受けてしまう危険があります。
請求の内容を争う場合はもちろん、分割払いを希望する場合でも、異議申立てによる対応をしましょう。また、もしかしたら借金について時効が成立しているケースもあります。

異議申立てによる和解交渉や時効の援用については、借金解決のプロである弁護士・司法書士に依頼をすることがお勧めです。
弁護士・司法書士ならば、借金問題に迅速に対応してくれるだけでなく、書面上の不備もなくスムーズに解決へ導いてくれるでしょう。

支払督促を受け取ったら、できるだけ早く弁護士・司法書士に相談し、アドバイスを受けることをお勧めします。

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望月則央
執筆・監修
望月則央(もちづき のりお) 著述業
弁護士として20年にわたり、労働事件、一般民事、交通事故、債務整理、相続問題など、様々な事件の弁護を担当。特に刑事事件の経験は豊富。現在は各種法律記事の執筆・監修を行う。早大法学部卒。
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