自己破産による保証人への影響
銀行などの金融機関・貸金業者からお金を借りる際には、「保証人(連帯保証人)」をつけるように義務付けられることがほとん…[続きを読む]
「簡単に連帯保証人になるものではない」という話はよく聞きます。
一方で、友人・知人から「連帯保証人になって欲しい」と求められることはままあるようです。
親族や親しい友人から保証人になることを頼まれた場合、断るのはなかなか難しいででしょう。
しかし、保証人・連帯保証人となることは、借金をした本人と同じだけの法律上の義務を負うことになるので、十分な注意が必要です。
ここでは、実際に債務者本人が借金を返済できなくなった時や、債務整理を行った時に、保証人・連帯保証人にどのような責任が発生するのかを解説します。
目次
債務者本人が支払不能になった場合、「保証人」と「連帯保証人」は、どちらも本人に代わってお金を支払う義務が生じます。
しかし、両者には法律上の義務に違いがあります。
ごく簡単にいうと、保証人よりも連帯保証人の方が義務が重いです。
保証人の場合には、債権者から督促を受けた時に「まずは債務者本人に請求してください。もし彼が払わない時には払います」と抗弁することが可能です(催告の抗弁権)。
また、保証人は債務者本人が債務履行をしない場合に、「まずはその債務者本人の財産に対して裁判所を通して強制執行をして、それでも債務が完済されない場合にのみ、保証人に対して取り立てをしてください」というように異議を述べることもできます(検索の抗弁権)。
更に、保証人が複数人いる場合は、各保証人が支払わなければならないのは債務の総額をその頭数で割った金額までに留まります(分別の利益)。
例えば、300万円の借金に対して3人の保証人がいる場合、各保証人は100万円(300万円÷3人)を債権者から請求されるに留まります。
一方、連帯保証人の場合には、上記のような権利や利益はありません。債権者は連帯保証人を債務者本人とまったく同じように扱うことができてしまいます。
すなわち、債権者としては、債務者本人に請求する前に連帯保証人に対して請求を行ったり、1人の連帯保証人に債務の満額の請求を行なったりしても問題がないのです。
とは言え、実務上、金融機関は債務者本人に請求を行ってから、どうしても回収できない場合に初めて連帯保証人への督促をするのが一般的です。
(※実際には保証人と連帯保証人はほとんど同じ扱いをされますが、法律上の建前では義務の内容が異なっています。)
なお、保証人が立替払いをしたら、保証人は後から本債務者に対して立て替えた分の支払いを求めることができます(これを「求償権の行使」といいます)。
以下では、保証人と連帯保証人をまとめて「保証人」と記載します。
主債務者が借金を支払えずにいると保証人に請求が来ますが、主債務者が「債務整理」をした場合も同様に保証人に連絡がいきます。
では、主債務者が債務整理をすると具体的に保証人にはどのような影響が出るのでしょうか。
自己破産を行うと、裁判所に申し立てをした本人は原則としてすべての借金について支払い義務を免れることになります(税金など一部の債務を除く)。
すべての借金が免除されて0円になりますから、その中にもし保証人が設定されている借金が含まれている場合には、債権者は保証人に対して残っている借金残高について督促をしてきます。
また、保証人に対して督促が行われる場合、ほとんどのケースで「一括での返済」が求められます。
個人再生が裁判所に認められると、元本が1/5~1/10程度まで大幅に減額された上で、その債務を3年程度で返済していきます。
借金の元本が減額されるとなると、債権者は借金の一部が回収不能となります。
すると、債権者は債務者本人から回収できなくなった分について、保証人から回収しようとしてきます。
保証人には「求償権」があると先述しましたが、主債務者が自己破産や個人再生を行なった場合、保証人が求償権で請求できる額はかなり減ってしまいます。
まず、自己破産をすると、保証人は主債務者に求償権を主張することができません。
自己破産を認められた人はそもそも支払い能力がないので、求償権も免除されてしまうのです。
個人再生の場合、求償権の範囲は、主債務者が個人再生によって減額された後の借金額と同じ額になります。
例を挙げて説明します。
1,000万円の債務があり、主債務者が個人再生したことによって主債務者の支払い額が200万円になったとします。主債務者が200万円を支払い、保証人が800万円になるまで支払えば、返済額の合計が元々の借金額と同じになるので借金は完済となります。
しかし、保証人が求償権に基づいて主債務者に800万円を請求できるかというと、それは不可能です。主債務者は800万円の支払い義務を免除されているわけですから、約束の200万円をしっかり支払ったのならば、主債務者にはそれ以上の支払い義務はありません。
ここで、上記の取り決めのまま、主債務者が100万円を支払い、保証人が900万円を支払った場合を考えてみましょう。この場合でも債務は完済となりますが、主債務者は個人再生によって200万円の借金を返済することになっていたところ、そのうちの100万円分を保証人が負担してくれたことになります。
このとき、保証人は主債務者に代わって負担した100万円分のみ求償権を得ます。
仮に保証人が全額の1,000万円を支払った場合は、主債務者が支払うはずだった200万円について保証人が求償権を得て、主債務者に対して200万円の返還を請求できます。
求償権の範囲を制限しなければ、主債務者が自己破産や個人再生をした意味がなくなってしまうので、このような定めが存在しています。
任意整理は、債務者と個別に交渉をして債務を減額したり、返済スケジュールを立て直したりするものです。
もし、借金をした本人に収入があり、返済をしていく意思があるというのであれば、保証人の立場としては任意整理での借金減額をうながすことをおすすめします。
任意整理の場合、他の債務整理の方法(個人再生や自己破産)と比べると、以下のような面で保証人に有利な面があります。
任意整理の場合、債務者本人が免除される借金の負担は、原則として利息の免除のみとなります。
つまり、借金元本についてはそのまま債務者本人に支払い義務が残りますから、保証人が支払いを求められる可能性のある債務は最低限にすることができます。
例えば、消費者金融からの借金元本が100万円で、未払いになっている利息が5万円あるというような場合、債権者側としては保証人に請求するのは利息分(5万円)のみということになります(※元本の返済を債務者本人が約束通りに行なった場合)。
更に、免除された利息の金額が少額である場合には、わざわざ保証人に対して請求をしてこないというケースも少なからずあります。
任意整理の場合、「どの借金について減額の手続きをするか」を選択することができます。
(一方、自己破産と個人再生は全ての借金が整理の対象となります。)
例えば、「消費者金融から借りている無担保のローンについては任意整理を行うけれど、保証人のついている銀行からの借金についてはこれまで通りに支払う」という選択が可能なのです。
後者の借金については、本来の返済スケジュール通りに支払いをしていれば保証人に対して督促が行くことは基本的にありませんから、保証人としてはこの形をとってもらうことで負担が最も小さくできます。
保証人に十分な資力がないと、保証人自身も上記のような債務整理を選択する必要があるかもしれません。
借金全額の免除をしてもらいたいのであれば自己破産を、分割支払いや利息の免除をすることで返済の見込みがあるのであれば個人再生や任意整理を検討することになるでしょう。
このように、保証人は主債務者の借金を肩代わりする義務が生じ、これを支払えない場合はご自身の債務整理などをする必要が出てきます。
保証人になることを頼まれた際には、二つ返事で承諾せず、よく検討をするようにしましょう。
以上、債務者本人の返済が滞った時に、保証人に対して生じる影響について解説しました。
保証人となっている以上、債務者本人が支払不能になると本人に代わってお金を支払う義務が生じることになりますが、債務者本人が債務整理をするならば、その方法によっては保証人の負担を小さくできるケースもあります。
(本文でも解説させていただいた通り、保証人の負担を小さくすることを考えるのであれば、債務者本人には任意整理を選択してもらい、できる限り自分で返済をさせることが望ましいです。)
実際に保証人として債権者から督促が来ている状態の人は、今後どのような行動をとるのがベストなのかについて、弁護士・司法書士などの専門家にアドバイスを受けるようにしましょう。
借金の問題については、経験や知識のない人が自己判断で行動してしまうと、思いもよらない大きな不利益を被ってしまう可能性があります。
保証人としての負担を少しでも小さくしたい方は、お一人で悩まず弁護士・司法書士へ相談することをおすすめします。