自己破産の前に離婚するべき?債務整理の影響と注意点

自己破産の前に離婚するべき?債務整理の影響と注意点

自己破産に対してマイナスなイメージを持つ方は多く、特に既婚者だと「自己破産をするならば、配偶者や子どものためにも離婚をするべきなのでは」と考える方がいます。
あるいは、「夫が借金まみれで自己破産をするらしいから離婚をしたい」と考えるケースもあるでしょう。

しかし、自己破産は養育費や財産分与の面から離婚後の生活に影響を及ぼす可能性があるため、安易な決断は危険です。少なくとも離婚のタイミングには注意するべきで、見誤ると大きな損をする可能性があります。
また、借金(自己破産)が理由で離婚をしたいと考えても、法律的にはこれが難しいケースがあります。

本記事では、自己破産と離婚がどのように関係し、それぞれがどのような影響を及ぼすのかを詳しく解説します。
自己破産による家族への影響や、離婚前後に自己破産をすることによる財産分与請求権、養育費、離婚慰謝料等への影響について、丁寧に説明していきます。

自己破産による配偶者や子どもへの影響

自己破産の影響(財産処分・ブラックリスト)

実は、自己破産をしても同居の配偶者や子どもなどの直接的な影響は及びません
財産の一部処分やブラックリストへの登録などは、いずれも債務者(破産者)本人にのみ及ぶ影響で、家族名義の財産などには影響しないのです。

とはいえ、以下のような間接的な影響は及びます。

  • 一定以上の共有資産や預金がある場合は処分されてしまう
  • 財産の処分の影響により生活費や教育費の確保が厳しくなる
  • 免責された借金について家族が連帯保証人になっている場合、支払い義務が発生する
  • ブラックリストによりあらゆる借入やクレジットカードの利用ができなくなり、保証人にもなれない

例えば、マイホームが破産者の名義(あるいは夫婦の共同名義)である場合、自己破産でマイホームは処分されるためほとんどのケースで引っ越しを余儀なくされます。
また、破産者名義の財産(現金や預貯金)を処分されると、生活が逼迫してしまう可能性があります。

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さらに、自己破産後は信用情報機関に事故情報が登録されて5年〜7年はあらゆる審査に通らなくなりますので、破産者名義でローンを組んだり、クレジットカードを作ったり、子どもの学資ローンや奨学金の保証人になったりすることができません。

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自己破産だけが理由で離婚はできない

実は、上記のような影響を危惧して配偶者と離婚したいと思っても、自己破産が原因の離婚は法律上認められないケースが多いです。

離婚の多くは協議離婚により成立しています。夫婦が話し合いで離婚を決める方法です。
自己破産や借金が理由の場合、この協議離婚で夫婦が互いに同意をすれば離婚をすることが可能です。

しかし、どちらかが離婚したくないという場合は、調停離婚という家庭裁判所の手続きを利用することもあります。それでも折り合いがつかない場合は、訴えを起こし、裁判で決着をつけることになります。

裁判離婚では、どちらかが「離婚したくない」と思っていても、離婚できる事情が予め法律で定まっています。
民法770条1項には法定離婚事由が5つ定められており、これに当てはまる場合には裁判離婚が認められるのです。

具体的には、以下の事情がある場合には相手が拒否しても離婚が認められます。

  • 不貞行為があった場合
  • 悪意の遺棄が合った場合
  • 3年以上配偶者の生死が不明の場合
  • 回復できないほどの強度の精神病に罹患している場合
  • その他、婚姻を継続しがたい重大な事由がある場合

上記のように、自己破産や借金自体は離婚事由に当たりません
しかし、場合によっては借金が悪意の遺棄婚姻関係を継続しがたい重大な事由にあたるケースもあります。具体的には、以下のような事情がある場合です。

  • 度重なる借金で婚姻生活に支障が出ている
  • 個人的に借金を繰り返し浪費した上で、生活費を入れない
  • ギャンブル依存症で生活できない
  • 結婚後に多額の借金があることを知ってしまった

このように、借金があるという理由だけでは裁判離婚はできないでしょう。

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離婚前に自己破産した場合のメリット・デメリット

では、離婚前に自己破産をした場合(=自己破産をしてから離婚する場合)のメリットとデメリットを見ていきます。

財産隠しを疑われずに済む

自己破産をすると、目ぼしい財産を持っている場合はこれが処分・換価されて債権者に配当されることになります。
よって、財産を正しく処理した上で債権者に平等に分配する作業をするために、裁判所から「破産管財人」が選任されます。

破産管財人が選任される自己破産手続きのことを「管財事件」といい、選任されないケースに比べて費用が多くかかるほか、手続きにかかる時間も長くなってしまいます。

離婚後に自己破産をすると、離婚についての慰謝料や財産分与の影響で破産者が一定以上の資産を所有することになるでしょう。
また、財産分与が正く行われているのか?(財産隠しをしていないか?)と調査する必要があると判断され、破産管財人が選任される可能性が高くなります。

実際、自己破産をしてもご自身の財産を少しでも多く残したいと考え、偽装離婚して財産分与の際に離婚相手へ財産を多めに渡して隠したり、離婚の際に名義を変更したりするケースは存在します。
よって、破産管財人は離婚後の債務者に関しては特に念入りに財産情報をチェックするでしょう。

先述の通り、管財事件になると費用や手間が多くかかります。
破産管財人が選任されない「同時廃止事件」になる可能性を上げるためには、離婚前に自己破産をする方が良いでしょう。

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配偶者に破産手続きへの協力をしてもらう必要がある

自己破産では、破産者固有の財産を調査するための家計簿や預金通帳の他、配偶者の収入や生活状況を知るための通帳、収入証明書などの提出を求められることがあります。

仮に別居中であっても婚姻関係にあるならばこれが必要となりますので、離婚前の自己破産では配偶者に書類提出について協力してもらうケースが出てくるかもしれません。

共有財産が処分されてトラブルになる可能性

自己破産で処分対象になり得る財産は多岐に渡ります。
現金や貯金の他にも、マイホームや土地建物などの不動産、車やバイク、保険(解約返戻金)、有価証券、価値の高い動産(貴金属や芸術品・骨董品)、他人に貸しているお金(債権)なども資産として扱われます。

配偶者が個人名義で所有している財産には影響ありませんが、例えば、共有名義のマイホームや車、口座預金などは処分の対象となり、さらなるトラブルに発展する可能性があります。

離婚後に自己破産した場合のメリット・デメリット

次に、離婚後に自己破産をした場合(=離婚してから自己破産する場合)のメリットとデメリットを見ていきます。

元配偶者の財産に影響が出にくい

先述の通り、自己破産では共有財産(共同名義の財産)が処分の対象となるケースがあり、これによりトラブルに発展するケースがあります。
しかし、先に離婚をしていれば原則として相手の財産への影響はありません。離婚時に財産分与は既に終了しているからです。

とはいえ、この財産分与が行われていることにより、以下で説明する財産隠しを疑われて「管財事件」となってしまうリスクが高まります。

財産隠しを疑われる可能性がある

繰り返しますが、自己破産で処分される財産を抑えようと偽装離婚して、財産分与の際に離婚相手へ財産を多めに渡して隠したり、離婚の際に名義を変更したりするケースは存在します。
そこで、自己破産前に離婚をしていると、破産管財人が選任されて離婚慰謝料や財産分与の相当性を調査される可能性が高いでしょう。

このような管財事件では、裁判所に納めるお金(予納金)は20万円以上上乗せされます。破産管財人の人件費は破産申立人が支払うことになっているからです。
また、同時廃止が3ヶ月半~4ヶ月で終わるのに対し、管財事件は4ヶ月~半年、長ければ1年以上かかることがあります。

さらに、郵便物はすべて破産管財人の事務所に転送される、一定期間資格制限や移動(引っ越し・旅行)の制限がされるなど、管財事件のデメリットは大きいと言えます。

よって、できれば離婚の前に自己破産をして、同時廃止事件として手続きを進める方が良いでしょう。

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破産をしても一部慰謝料や養育費の支払いは免れない

「自己破産をすれば全ての借金が免除されるのなら、離婚後に自己破産をすることで慰謝料や養育費も払わずに済むのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、養育費は自己破産をしても免除されませんし、慰謝料についても場合によっては支払い義務が残るケースがあります。

これは後の段落で詳しく解説します。

離婚をする場合の自己破産のタイミング

自己破産と離婚の時期については一概に言えるものではありませんが、注意点をまとめると以下の通りになります。

【離婚前に自己破産する場合】
・財産隠しを疑われずに済む
・配偶者に破産手続きへの協力をしてもらう必要がある
・共有財産が処分されてトラブルになる可能性
・自己破産後でも財産分与により離婚後の生活費を確保できる
・離婚時に負債がない状態でスタートできる

【離婚後に自己破産する場合】
・元配偶者の財産に影響が出にくい
・財産隠しを疑われる可能性がある
・破産をしても一部慰謝料や養育費の支払いは免れない
・財産分与請求権は免除される

結論としては、自己破産が同時廃止で済む(管財事件にならない)ことのメリットが非常に大きいですので、同時廃止が見込めるならば離婚前に自己破産をすることがお勧めです。
また、財産分与が見込めて離婚後の生活設計も立てやすい状況であれば、やはり離婚前に自己破産するのがよいでしょう。

しかしこれは一概には言えず、離婚後の自己破産の方がメリットが大きくなる方もいるかもしれません。
この点は弁護士などの専門家に詳しく相談し、賢明に判断することが重要です。

自己破産により免責される請求権

「自己破産をすれば全ての借金が免除されるのなら、離婚後に自己破産をすることで慰謝料や養育費も払わずに済むのでは?」と考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、養育費は自己破産をしても免除されませんし、慰謝料についても場合によっては支払い義務が残るケースがあります。

養育費を支払う義務は消えない

まず、いくら借金があり自己破産をせざるを得ない状況でも、子どもに関する責任は免除されません。
養育費は子どもの監護や教育のために必要な費用であり、衣食住に必要な経費、教育費、医療費という意味合いもありますので、子どもが健やかに成長するためにも、例え自己破産をしても養育費を支払う義務は免除されないのです。

自己破産で他の借金を整理しても養育費を支払う余裕がない場合、相手(元配偶者)には現状を正直に伝え、養育費を減額してもらえないか?を交渉してみましょう。

以下のような場合は養育費の減額が認められる可能性が高くなりますので、これを交渉の材料にすると良いでしょう。

  • 養育費を支払う側(義務者)再婚した
  • 養育費を受け取る側(権利者)が再婚した(扶養家族が増えた)
  • 義務者の収入が減った
  • 権利者の収入が増えた
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離婚慰謝料や財産分与請求権は免責になる可能性

「慰謝料」は精神的な被害を与えたことに対する賠償金です。
この慰謝料の性質が「悪意で加えた不法行為」や「故意または重過失によって加えた人の生命又は身体を害する不法行為」に基づく損害賠償請求権に当たる場合、自己破産をしても免除されない可能性があります。

例えば、DVによる離婚については、その慰謝料が非減免債権になる可能性が高いです。DVは「故意または重過失によって加えた人の生命又は身体を害する不法行為」だからです。

一方、不倫による離婚の慰謝料については、判断が難しい部分があります。
不倫は「悪意で加えた不法行為」ではなく、恋愛感情の結果として発生することが多いです。配偶者を積極的に害する目的ではないと裁判所が判断すれば、不倫による離婚の慰謝料請求権は免除されることになります。

いずれにせよ、慰謝料が免除されるかどうかケースバイケースです。最終的には裁判所側の判断に委ねることになります。

なお、財産分与請求権については自己破産により免責となり、支払う義務はなくなります。
離婚後の財産分与が完了していない状態で相手が自己破産をすると財産分与を受け取れなく可能性が高いのでご注意ください。

自己破産と離婚でお悩みなら弁護士へ相談を

自己破産と離婚は、いずれも大きな決断を伴うため人生において重大な問題です。

離婚の際の財産分与や慰謝料は自己破産に影響を及ぼす可能性がありますし、また、自己破産をすることにより配偶者(元配偶者)に間接的な影響が及ぶケースもあります。
最適な時期を見極める必要があり、また、自己破産や離婚は複雑な法的問題が伴うため、弁護士に相談することが賢明でしょう。

もしかしたら、自己破産ではない別の方法で借金問題を解決できる可能性があります。
個人再生や任意整理ならば、マイホームなどの資産を処分することもなく借金を整理できますので、離婚を回避するという選択肢も生まれるでしょう。

弁護士に適切にアドバイスを仰ぐことで、自身に最適な選択ができます。
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執筆・監修
服部 貞昭(CFP・日本FP協会認定)
ファイナンシャル・プランナー(CFP・日本FP協会認定)
2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)
東京大学大学院 電子工学専攻修士課程修了

新宿・はっとりFP事務所
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